ペットと栄養学
カロリー摂取
わんちゃん、ねこちゃんの健康管理の最も基本は、摂取カロリー(摂取エネルギー)の管理ですよね。アレルギーや疾病などの他の要因がなければ、栄養バランスが保証されている「総合栄養食」を与えている限り、水をしっかりと飲ませることと「摂取エネルギーの管理」がメインとなります。エネルギーといっても、いろいろな種類と定義があります。実はフードの袋に書かれているカロリーの数値はフードの持つ全エネルギーではありません。では、一体・・・?
食べた3大栄養素(脂質・タンパク質・炭水化物)は、エネルギーとなります。
食事で飲み込んだ全ての3大栄養素のエネルギーを「総エネルギー(GE)」といいます。
生き物はGEのすべてを利用することはできません。利用どころか、消化されることなくうんち(糞)になって出ていくエネルギーもあります。糞も乾燥させれば可燃物です。エネルギーが混ざっている証拠です。この消化されずに糞便で排出されるエネルギー以外のものを「可消化エネルギー(DE)」といいます。
では、消化されたエネルギーは体に吸収されるのか?答えはNOです。消化された食べ物が発酵してできるガス(おならやゲップ)にもエネルギーが含まれますし、尿中にもエネルギーが捨てられる場合があります(糖尿など)。こうして失われるエネルギーを除いたものが「代謝エネルギー(ME)」といいます。「代謝可能エネルギー」という場合もあります。
捨てられずに体内で代謝(化学反応で合成・分解)されて生み出されるMEでも全てを使用することはできません。食べ物を消化・吸収・利用するときに熱が生じます(特異動的効果)。エネルギーを摂取するために失うエネルギーといえます(なんのこっちゃ?)。食事すると体温が上がりますよね。それです。これも立派なエネルギー損失です。この損失を除いたエネルギーを「正味エネルギー(NE)」といい、体を動かしたり貯えたりすることに使われます。
お手元のフードの袋をご覧ください。原材料や栄養成分表の○○kcal/100g又は○○kcal/kgで書かれているカロリー表示。これは、全て代謝エネルギー(ME)の表示です。
消化・代謝率 | 1gあたりのGE | 1gあたりのME | |
脂質 | 90% | 9.4kcal/g | 8.5kcal/g |
タンパク質 | 80% | 4.4kcal/g | 3.5kcal/g |
炭水化物 | 84% | 4.15kcal/g | 3.5kcal/g |
消化・代謝のしやすさは、一般的なフードの成分では、脂質>炭水化物>タンパク質となります。脂質は大きなカロリー(エネルギー)を持っていますし、消化されやすいため代謝エネルギー(ME)も大きくなります。脂質を取りすぎると太るというのは脂質の持つ代謝エネルギー(ME)の大きさからいわれていることです。
タンパク質と炭水化物では、タンパク質の方がやや総カロリーが高いのですが、消化のしやすさで相殺されて代謝エネルギー(ME)で見るとタンパク質と炭水化物はほぼ同じ値となります。
あるフード100g(タンパク質:24%、脂質:14%、炭水化物:46%)の代謝エネルギー(ME)を計算してみます。
摂取したエネルギー > DER ⇒ 肥満
摂取したエネルギー < DER ⇒ 痩身
効率よくダイエットさせようとして「健康のためにゼロ脂肪!」などということは絶対にしないでくださいね。栄養学を学んだ時の講師(獣医師)がよく「ささみキャベツごはん」を例にして説明していました。毎日こればかり食べれば、確実に生物を死なせることができる食事だそうです。なぜかというと「ファット・フリー(脂肪ゼロ)」だから。脂肪はカロリーが高いですが、重要な栄養素なんです。「無炭水化物ダイエット」は存在しても「無脂肪ダイエット」は存在しないそうです。細胞膜は脂肪で出来ています。ということは、脂肪を食べなければ・・・もうお分かりですね。各種脂肪酸は必須栄養素です。
本題からそれてしまいました。この話はまた別のコーナーでしましょう・・。
さて、DERには一般的な計算方法があります。安静時のエネルギー要求量(RER)にライフステージや状況によって変わる「係数」をかけて求めます。
- 体重を3回かけて下さい。(体重×体重×体重=)
- 「ルート」ボタンを2回押します。
- 最後に「70」をかけて下さい(×70=)
面倒くさいと思われる方は簡易計算の方で計算してみてください。簡易計算は超小型犬と超大型犬で誤差が大きくなります。
下に計算結果を掲載しておきます。
妊娠期・授乳期は特別に多くのエネルギー摂取が必要な時期です。
ここで紹介したDER計算は、あくまで「簡易的な参考」として理解してください。愛犬・愛猫の正確なDERはかかりつけの動物病院にご相談ください。本来、1日あたりのエネルギー要求量(DER)を計算するためには、ライフステージ(年齢期)、去勢・避妊の有無などだけではなく様々な要素を加味しなければなりません。
DERを算出するために獣医師が考慮する要素の例
- 種別、年齢、体重等
- 飼育環境(ストレスを含む)
- 病歴、体調
- 日ごろの栄養摂取量
- 現在の体の様子や印象(ボディー・コンディション・スコア)
- 去勢・避妊の有無
- 活動レベル(トレーニングや競技参加なども考慮)
- 妊娠期
- etc.
太ったからといって急激なダイエットは禁物です。食事量の調整は徐々に行いましょう。絶食なんてもってのほかですよ。肥満の猫に絶食を行うと肝リピドーシス(脂質代謝異常で肝臓に過度の脂肪が貯まる病気)になることもあります。
数値を気にすることも大事ですが・・・私たち人間がまるで病院食のように栄養を完璧に数値管理される毎日だとどうなのでしょうか。ストレスですよね。わんちゃん・ねこちゃんも同じではないでしょうか。もちろん、健康のためには栄養管理は大切ですが、そればかりになってしまい、もっと大切なことを見失わないようにしたいものです。「食事」は動物にとって最も楽しみなことの一つですから。
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