フードの取扱い
腐敗とその防止
微生物(細菌やカビなど)によって起こされる食べ物の変質を腐敗といいます。微生物を増殖するのを防ぐことが腐敗の防止につながります。
細菌やカビなどの微生物が主としてタンパク質を分解することで起こる食べ物の変質のうち、食べるのに適さない状態に変質することを「腐敗」といいます。(同じく微生物が起こすことですが、食べられる状態に変質することは「発酵」といいます。お酒やチーズ、納豆など発酵は様々な食品に利用されています。)
微生物が増殖することで腐敗(発酵も)は進行します。微生物の増殖には微生物が利用する「栄養」や「水分」の他、温度、酸素、pH等の「環境」も関係してきます。
カビなどの微生物の増殖を防ぐためにはこれらの条件を取り除いてやることが大切です。でも、明らかに出来ないことが一つありますね。「栄養」を取り除いたらフードではなくなってしまいます。
水分そのものを除去すれば腐敗を止められるのは想像しやすいですね。干物や燻製などは水分を除去する保存食の作り方です。水分がなくなればこのあと説明する自由水も当然なくなり、水分活性が下がるのは当然です。ドライフードはこの方法で腐敗を防止しています。気をつけなければならないのは乾いたものは空気中の湿気を吸収してしまうということです。
微生物が利用可能な水分は、フードに含まれる水分の全てではありません。「自由水」と呼ばれるフードの分子と結合していない水分です。この自由水がどれだけ含まれていて微生物が利用できる状態かを示す指標を「水分活性」といいます。
水分活性が高いほど増殖できる微生物の種類は増えていきます。水分活性が0.65以下になると一般のカビも生えることが出来なくなり、0.5以下ではあらゆる微生物の増殖を防げるとされています。
水分が多くても自由水さえ減らして水分活性を下げれば腐敗は防止できます。食品中の「水分」と「水分活性」は比例しません。梅干しが良い例です。梅干しは干物のように乾いていませんが簡単には腐敗しません。
梅干しには大量の塩が使われていて、この塩分が含まれる水分と結びつくため、自由水がほとんどなくなってしまうからです。塩漬け、砂糖漬け、保湿剤の使用は自由水を減らすことで保存食を作る方法です。水分をある程度持っているセミモイストフードに保湿剤を添加するのはこのためです。
水分と水分活性が比例しないため、水分○%以下なら腐らないとは一概には言えません。含まれる水分のうち何割ぐらいが自由水かはフードによって異なります。ですが、一般にドライフードでは水分が13%を超えるとカビが生え始めると言われています。ドライフードをストックする容器はしっかりと空気を抜いて口を閉じておきましょう。シリカゲルなどを入れておくと良いのは以上の理由からです。
微生物はそれぞれ好みの温度、酸素、pH値(酸性かアルカリ性か)があります。これらの環境を避けることで微生物は増殖できなくなったり、速度が抑えられます。困るのは微生物の好みの環境が微生物毎に異なるということです。
高温が好みの菌もあれば、酸素がないところを好む(嫌気性)細菌もあります。胃潰瘍で有名なピロリ菌は胃酸の中で堂々と暮らしています。沸騰するお湯の中でも生きられる菌もあるのです。
一般に食べ物を腐らせる微生物は低温で活動を鈍らせます。pHを下げて酸性にしても活動が抑えられます。また、活動に酸素が必用です(嫌気性細菌は逆に酸素を嫌います)。
放っておくと腐敗してしまう食べ物を保存するために一般に行われているのは、「冷蔵・冷凍する」、「酸素をなくす(脱酸素剤はご家庭では使用困難です)」、「酢漬けにしたり、pH調整剤で細菌が嫌うpHを維持」などでしょう。これらは細菌やカビがいやがる環境を維持するために行っています。ただし、これらの手段は万能ではありません。上に書いたとおり、微生物が増殖できない環境は種類毎に異なるためです。
他にも微生物増殖を防ぐ手段が缶詰やレトルトパックなど、密封後に微生物を死滅させる方法です。一度死滅させてしまい、密封を維持すれば水分、温度などの条件が整っていても増殖する微生物がはじめからいませんから増殖できません。缶詰もレトルトパックも封を閉じたあとで高温殺菌を行います。
以上の様な手段が有効でなかったり密閉加熱が出来ない食べ物の場合に微生物の繁殖を妨げる手段が「保存料」の添加です。スーパーで作るお総菜がその日に売り切るのに対してコンビニのパッケージされたお総菜の賞味期限が2、3日あるのは保存料未使用・使用の違いです。
増殖する元となる菌が存在して自由水がたっぷりとあり、環境が整えば微生物は一気に増殖して食べ物は食べられなくなります。開封後のウェットフードは冷蔵庫に保管して1日以内に消費しなければならない理由がおわかりいただけましたでしょうか。また、ドライフードは乾燥で腐敗を防いでいます。湿気させたら台無しということもご理解いただけたかと思います。
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