フードの取扱い
フードの保存
ペットフードは「食べ物」です。私たちの食べるものでも日が経つと食べられなくなるのと同様、ペットフードもいつかは食べられなくなります。出来るだけ日持ちさせたい場合どんなことに気をつけたらいいのでしょうか?人間の食べ物の保存方法と基本は同じです。
食べ物が食べられなくなる状態になることを「腐る」、「悪くなる」、「痛む」と日常生活でよく言うと思います。食べるのに適さなくなるというのは、食べた場合に体に悪影響を及ぼす状態になっているということです。
食べるのに適さない状態へと変化する現象は、大きく2つ存在します。「腐敗」と「酸敗」です。酸敗という言葉は聞いたことがない人も多いのではないでしょうか。「油焼け」と表現することもあります。
細菌やカビなどの微生物が主としてタンパク質を分解して起こす食物の変質のことを「腐敗」といいます。微生物が増殖するには栄養・水分・環境(温度・酸素・pH)などの条件が必要です。家庭で食べ物を冷蔵庫に入れたり乾燥剤を入れたりするのはこのためです。腐敗したものを食べた場合には即効性があります。微生物の種類によっては致死性もあるので気をつけましょう。
空気中の酸素により食品中の油脂が酸化されて起こる食物の変質を「酸敗」といいます。光(特に紫外線)、熱、湿気、酵素などによって助長されます。家庭で直射日光の当たらない冷暗所に食べ物を保管する必要があるのはこのためです。酸敗したものをちょっと食べても胸焼けする程度ですが、食べ続けることで取り返しの付かない影響が体に蓄積されます。気がついたときには手遅れです。
食べられないわけではありませんが、時間が経過すると起きることがもう一つあります。ビタミン等の栄養素の自然分解です。体に害を及ぼす物質が生ずるわけではありませんが、必須栄養素であるビタミンがフードから減少すると総合栄養食としての各栄養素の必要量を満たせなくなります。
だからといって各栄養素は多すぎると体にとって毒性を示し始める(過剰)ので入れすぎるわけにはいきません。そのため製造段階では過剰にならないように各栄養素を添加しています。時間が経つと一部の栄養素が不足してしまうのは仕方がないことなのです。適切に保管していた場合や未開封であっても賞味期限は守る必用があります。
食べ物を腐敗から守るには細菌やカビなどの微生物の増殖を防ぐことが大切です。細菌やカビの増殖を防ぐには加熱や冷蔵・冷凍、乾燥、塩漬け・砂糖漬け、脱酸素などいろいろあります。この中で「乾燥」は微生物の増殖を不可能にする方法として保管を行う上で最も有効な方法です。
ご家庭で出来る腐敗防止は、「乾燥を維持する」又は「冷やす」が主なところになります。ドライフードであれば乾燥の維持ですし、ウェットフードであれば冷蔵保存がメインとなります。
一定以上乾燥させると微生物は増殖することが出来なくなります。ドライフードは多くの場合水分量10%以下に作られています。この状態を維持すれば微生物は増殖できません。
フードにもよりますが、水分量が約13%を超えると微生物増殖可能な「水分活性」となります。(水分活性について詳しくはこちら>>)
冷蔵庫から出すと冷えたフードの表面で結露が起きてフードをぬらします。これによって微生物の増殖が可能な水分量になります。ドライフードを冷蔵庫に入れてはならないのはこのためです。
開封後のウェットフードは冷蔵庫で保管します。元々水分量が多い(水分活性が高い)ためです。冷やしても微生物の増殖は止められません。増殖のスピードを落とさせる効果しかありませんから冷蔵しても開封から1日以内には食べきらなければなりません。
空気中には水蒸気(湿気)が含まれます。これがからからに乾いているドライフードに吸収されます。
一定量以上フードが湿気が吸収してしまうと微生物の増殖が始まってしまいます。ドライフードの入れ物は空気を抜いて口をしっかり閉じましょう。シリカゲルなどの乾燥剤を同封しておくと湿気を吸ってくれます。
空気中の湿気を追い出す最も効果的な方法は「袋の空気を抜く」ことです。フードストッカーなど「空間」が出来てしまうような容器に入れると空間にある湿気がフードに吸われてしまいます。チャック付で気密性のある袋(元の袋)の使用をオススメします。
手動や簡易電動ポンプで空気を抜く「真空」フードストッカーが市販されていますが、その程度ではほとんど空気は抜けません。当然そこに含まれる湿気もほとんど抜けていません。それよりも空間を残さないように手で袋をつぶす方が効果的です。
乾燥を維持できれば腐敗が起きないドライフードですが、腐らなくても食べられなくなるのが酸敗です。ウエットフードの場合は酸敗するよりも先に腐敗しますので、「酸敗の防止」はドライフードのこととお考え下さい。
酸敗とはその名の通りフードが酸素に侵されることですから酸素を除去すればいいのでは?と思いがちです。でもご家庭で出来る処置で完全に酸素を除去することはほぼ無理です。
最もシンプルな酸敗防止方法は、「開封したら出来るだけ早く使い切る」ことです。1日の給与量を考慮して開封後1ヶ月以内で食べきれる大きさの袋又はその大きさ以下に小分け包装されたフードを購入するようにしましょう。
ドライフードには合成(BHA等)又は天然(ビタミンC・E等)の酸化防止剤が使われていますが、開封したフードは1ヶ月以内に使い切ることが大切です。購入出来るフードのサイズは1ヶ月分までと考えて下さい。(小分けされている製品では1袋が1ヶ月分以下であれば問題ありません。)
空気を吸い上げるフードストッカー(上の「腐敗の防止」で説明しているのと同じ)では、酸敗をほとんど防止できません。袋を閉じるたびに新品の脱酸素剤を大量に同封するなら大丈夫ですが、ご家庭でそんなこと現実的ではありません。
油脂の酸化は「紫外線」、「温度」、「湿気」などにより助長されます。これらを防ぐ処置を怠るとフードの給与限界は1ヶ月よりも短くなります。
遮光性のある袋に入れて保管しましょう。太陽の光や蛍光灯の光には紫外線が含まれます。光を通さないアルミ蒸着パックがオススメです。
温度が10度上がると酸化の速度は約2倍とも言われています。なるべく涼しい場所で保管しましょう。ただし、湿気防止のため冷蔵庫での保管はNGです。
湿気の防止は上の「腐敗の防止」と同じです。開封した袋は出来るだけ空気を抜いて口をしっかりと閉じて下さい。
ちなみに・・・当店のフード保管庫は太陽の直接光が当たらない場所にあり、照明には紫外線を出さないLEDを使用しています。温度・湿度も常時適切に保たれています。
1食分ずつ小分けして冷蔵保存をされている方もいらっしゃいます。当店店長も昔同じことをしていたことがあります。これなら冷蔵庫から出して結露したとしても1回で使い切りますから、酸敗をさらに遅らせることができる・・・と考えられますが、・・・実は冷蔵にはもう一つの落とし穴があります。
デンプンの「老化」をご存じですか?「β化」ともいいます。犬はデンプンの消化が得意ではありません。猫は犬よりもデンプン消化が苦手です。でもしっかりと加水と高温で調理されて「α化(糊化)」されたデンプンはねこちゃんでも容易に消化が可能です。ドライフードには粒形成のために必ずデンプンが使われていて、エクストルーダー等での加水及び高温高圧調理によって完全にα化されています。
α化されたデンプンは長期間放置すると老化(β化)してしまいます。この老化は0℃付近が最も進行します。冷蔵庫で長期保管するとドライフード内のデンプンが老化してしまうことになります。(ペットフードの話ではありませんが、炊いたご飯を保存する場合は乾燥しないようにラップ等をかけて「冷凍」で保存しましょう。0℃を大きく下回ると老化しにくくなります。)
βデンプンは人間でも消化困難。下痢を起こすこともあります。βデンプンである生米や生の小麦粉を食べられないのはそのためです。ましてやデンプン消化が苦手なわんちゃん、ねこちゃんならなおさらです。ドライフードの冷蔵保存は止めましょう。(開封後のウェットフードは1日以内の保存ですし腐敗しやすいため、必ず冷蔵庫に入れます。)
腐敗と酸敗からフードを守って美味しく安全に食べさせるには、保存要領を正しくすることとドライフードでは1袋が約1ヶ月以内で食べきれるサイズで購入することが大切だということが分かります。
体重3kgぐらいの小型犬の場合、フードにもよりますが1日の給与量は約50g。1ヶ月で約1.5kg・・。この量以下ということは小袋ですよね。小袋ってコスパが悪い。だからといって格安フードを食べさせるのも忍びないし・・・。大袋だと酸敗が心配・・・。
そんなジレンマを解決する方法・・・ありますよ!!「窒素置換小分け包装」です。次のページでご紹介します。
ここに掲載の内容はあくまでご参考いただくことを目的としております。この内容に基づくあらゆる行動の結果について当店は責任を負いかねますことをご了承ください。
腐敗とその防止
微生物(細菌やカビなど)によって起こされる食べ物の変質を腐敗といいます。微生物を増殖するのを防ぐことが腐敗の防止につながります。
細菌やカビなどの微生物が主としてタンパク質を分解することで起こる食べ物の変質のうち、食べるのに適さない状態に変質することを「腐敗」といいます。(同じく微生物が起こすことですが、食べられる状態に変質することは「発酵」といいます。お酒やチーズ、納豆など発酵は様々な食品に利用されています。)
微生物が増殖することで腐敗(発酵も)は進行します。微生物の増殖には微生物が利用する「栄養」や「水分」の他、温度、酸素、pH等の「環境」も関係してきます。
カビなどの微生物の増殖を防ぐためにはこれらの条件を取り除いてやることが大切です。でも、明らかに出来ないことが一つありますね。「栄養」を取り除いたらフードではなくなってしまいます。
水分そのものを除去すれば腐敗を止められるのは想像しやすいですね。干物や燻製などは水分を除去する保存食の作り方です。水分がなくなればこのあと説明する自由水も当然なくなり、水分活性が下がるのは当然です。ドライフードはこの方法で腐敗を防止しています。気をつけなければならないのは乾いたものは空気中の湿気を吸収してしまうということです。
微生物が利用可能な水分は、フードに含まれる水分の全てではありません。「自由水」と呼ばれるフードの分子と結合していない水分です。この自由水がどれだけ含まれていて微生物が利用できる状態かを示す指標を「水分活性」といいます。
水分活性が高いほど増殖できる微生物の種類は増えていきます。水分活性が0.65以下になると一般のカビも生えることが出来なくなり、0.5以下ではあらゆる微生物の増殖を防げるとされています。
水分が多くても自由水さえ減らして水分活性を下げれば腐敗は防止できます。食品中の「水分」と「水分活性」は比例しません。梅干しが良い例です。梅干しは干物のように乾いていませんが簡単には腐敗しません。
梅干しには大量の塩が使われていて、この塩分が含まれる水分と結びつくため、自由水がほとんどなくなってしまうからです。塩漬け、砂糖漬け、保湿剤の使用は自由水を減らすことで保存食を作る方法です。水分をある程度持っているセミモイストフードに保湿剤を添加するのはこのためです。
水分と水分活性が比例しないため、水分○%以下なら腐らないとは一概には言えません。含まれる水分のうち何割ぐらいが自由水かはフードによって異なります。ですが、一般にドライフードでは水分が13%を超えるとカビが生え始めると言われています。ドライフードをストックする容器はしっかりと空気を抜いて口を閉じておきましょう。シリカゲルなどを入れておくと良いのは以上の理由からです。
微生物はそれぞれ好みの温度、酸素、pH値(酸性かアルカリ性か)があります。これらの環境を避けることで微生物は増殖できなくなったり、速度が抑えられます。困るのは微生物の好みの環境が微生物毎に異なるということです。
高温が好みの菌もあれば、酸素がないところを好む(嫌気性)細菌もあります。胃潰瘍で有名なピロリ菌は胃酸の中で堂々と暮らしています。沸騰するお湯の中でも生きられる菌もあるのです。
一般に食べ物を腐らせる微生物は低温で活動を鈍らせます。pHを下げて酸性にしても活動が抑えられます。また、活動に酸素が必用です(嫌気性細菌は逆に酸素を嫌います)。
放っておくと腐敗してしまう食べ物を保存するために一般に行われているのは、「冷蔵・冷凍する」、「酸素をなくす(脱酸素剤はご家庭では使用困難です)」、「酢漬けにしたり、pH調整剤で細菌が嫌うpHを維持」などでしょう。これらは細菌やカビがいやがる環境を維持するために行っています。ただし、これらの手段は万能ではありません。上に書いたとおり、微生物が増殖できない環境は種類毎に異なるためです。
他にも微生物増殖を防ぐ手段が缶詰やレトルトパックなど、密封後に微生物を死滅させる方法です。一度死滅させてしまい、密封を維持すれば水分、温度などの条件が整っていても増殖する微生物がはじめからいませんから増殖できません。缶詰もレトルトパックも封を閉じたあとで高温殺菌を行います。
以上の様な手段が有効でなかったり密閉加熱が出来ない食べ物の場合に微生物の繁殖を妨げる手段が「保存料」の添加です。スーパーで作るお総菜がその日に売り切るのに対してコンビニのパッケージされたお総菜の賞味期限が2、3日あるのは保存料未使用・使用の違いです。
増殖する元となる菌が存在して自由水がたっぷりとあり、環境が整えば微生物は一気に増殖して食べ物は食べられなくなります。開封後のウェットフードは冷蔵庫に保管して1日以内に消費しなければならない理由がおわかりいただけましたでしょうか。また、ドライフードは乾燥で腐敗を防いでいます。湿気させたら台無しということもご理解いただけたかと思います。
ここに掲載の内容はあくまでご参考いただくことを目的としております。この内容に基づくあらゆる行動の結果について当店は責任を負いかねますことをご了承ください。